「NISAの含み益のほとんどが為替差益のものだったということがバレ始める……」
2026年9月8日(火)、SNSと掲示板にこんな声が溢れています。日本円が急速に円高へ動いたことで、新NISAで米国株・全世界株式ファンドに投資してきた投資家たちが「突然の含み益消滅」に直面しています。
新NISA制度で米国株や海外ETFに投資していた投資家たちが、円高ショックで大打撃を受けている。ドル円が急速に円高方向へ動いたことで、これまでの含み益の大半が為替差益だったことが浮き彫りになった。一部は損切りを迫られる一方、インデックス長期積立勢の冷静さが際立つ。
なぜこうなったのか。これは「損切りすべき」事態なのか。今後のNISA運用をどうすればいいのか。本記事で整理します。
※本記事は情報提供を目的としており、特定の投資行動を推奨するものではありません。投資にはリスクが伴います。最終的な判断はご自身の責任のもとで行ってください。
まず「円キャリートレードの巻き戻し」を理解する
キャリートレードとは何か——3分でわかる仕組み
「円キャリートレード」とは、金利の低い日本円を借りて、金利の高い外国通貨(主に米ドル)の資産に投資することで金利差(スプレッド)を利益として得る手法です。
具体的なイメージ
- 日本の銀行で1億円を低金利(0.5〜1%)で借りる
- その円をドルに換えて(例:1ドル=160円で換算)
- 米国債や米国株(年率3〜5%)に投資する
- 金利差の約2〜4%が毎年「ただで」もらえる仕組み
日本の金利が極めて低かった2010年代〜2020年代前半、この取引が世界中のヘッジファンドによって大規模に行われてきました。
「巻き戻し」とはどんな状況か
キャリートレードはしばしば高いレバレッジがかかっており、構造的に均質だ。これにより、トレンドが逆転した際に同期した巻き戻しが発生する。このような市場構造には緩衝メカニズムが欠けているため、価格調整は急激になりやすく、短期間で円が急速に上昇する結果をもたらしやすい。
つまり「巻き戻し」とは、
- 日本の金利が上昇し始め、「円キャリーの旨みが減ってきた」と判断した投資家が
- 借りていた円を返すためにドル売り・円買いをする
- これが連鎖的に起きて、一気に円高が進む
というメカニズムです。2026年6月の日銀利上げ(1.0%へ)がその引き金を引き、7月の日米協調介入がさらに加速させた流れが、今まさに進行中です。
なぜ新NISAの「含み益」が消えたのか——数字で見る為替インパクト
2024年1月〜2026年の為替推移と含み益の変化
新NISAが始まった2024年1月のドル円は約144円でした。その後円安が進み、2026年7月には163円台まで上昇しました。
この間に「S&P500インデックスファンド(為替ヘッジなし)」に100万円を一括投資していた場合、含み益の内訳はどうなっていたでしょうか。
仮定の試算(概算・あくまで参考例)
| 要因 | 変化率(概算) |
|---|---|
| S&P500(ドルベース)の上昇 | 約+30〜40% |
| 円安による為替効果(144円→163円) | 約+13% |
| 合計の円建て含み益 | 約+45〜55% |
しかし、2026年7月の介入後に円高が155円台へ、さらに現在は150円台前後に近づいていると仮定すると——
円高による為替効果の剥落(163円→150円):約▲8%
含み益の「為替分」が一気に縮小することになります。「含み益のほとんどが為替差益だった」という感覚的な声は、この数字的な現実を反映しています。
※上記はあくまで概算の例示であり、実際の損益は投資時期・ファンド・購入方法によって大きく異なります。
今、新NISA投資家が直面している3つの心理的落とし穴
落とし穴①:「損切りすべき?」——損切りが最も危険な選択
「金が必要な時が来るまで黙って積立してればいいのでは。どうせ考えても当たらんのだから」
掲示板の発言の中で最も的を射ているのがこのコメントです。
新NISAは「長期・積立・分散」を前提に設計された制度です。短期的な為替変動や株価の下落局面で損切りすることは、「安い時に買って、安い時に売る」という最も不合理な行動です。
歴史的に見れば、S&P500は1〜2年単位では大きく上下しますが、10〜20年単位では右肩上がりのトレンドが続いています。「含み益が消えた」ことと「損失が確定した」ことは全く別の話です。含み損は損切りしない限り「紙の上の数字」であり、長期保有を続けることで回復する可能性があります。
落とし穴②:「為替ヘッジありに切り替えるべき?」——円高転換後の切り替えは「後追い」
円高が急速に進んだ後に「為替ヘッジあり」のファンドに乗り換えることは、「火事になってから保険に入る」と同じことです。
為替ヘッジありは為替リスクをほぼ排除するが、ヘッジコスト(年1.5〜4%)が発生してリターンが目減りする。長期投資の主軸は「為替ヘッジなし」、短期で円高転換に賭けたいなら一部「ヘッジあり」を持つという使い分けが定石だ。
円高局面がいつまで続くかは誰にも分かりません。「今がどん底」と思って切り替えた直後に円安に戻るリスクも常にあります。
落とし穴③:「積立を止めるべき?」——むしろ積立の最大の恩恵が出るタイミング
毎月一定額を積み立てる「ドルコスト平均法」は、価格が下がった時期により多くの口数を購入することで、長期的な平均取得コストを下げる効果があります。
含み損の局面は、ドルコスト平均法が最も威力を発揮する局面でもあります。積立を止めることは、この効果を手放すことを意味します。
「円キャリー巻き戻しリスク」は今後も続くのか
2026年に円キャリートレードの巻き戻しリスクは確かに存在するが、まだ完全には実現していない。市場は現在、敏感な移行前の段階にあり、今後の展開は金融政策の分岐、金利差、リスク選好の相互作用に依存するだろう。以下の条件が重なるとリスクのエスカレーションが起こりやすくなる:
①米国の金融緩和への転換、
②日本からのより強硬なスタンス、
③米国債市場のボラティリティの大幅な上昇。
現在(2026年9月)の状況を当てはめると——
- 米国:ウォーシュFRB議長が今年のジャクソンホールでも明確な利下げシグナルを出さなかった一方、市場は12月の利下げを織り込みつつある
- 日本:日銀は6月に1.0%に利上げし、9月以降の追加利上げ観測も高まっている
- 介入効果:7月31日の日米協調介入(推計5〜6兆円)後も円安が完全には反転していない
この状況を踏まえると、「巻き戻しリスクは継続しているが、一気に150円台を割り込むほどの急騰はメインシナリオではない」という見方が現実的です。
長期投資家がいま本当にすべきこと——3つの行動指針
行動指針①:「為替の含み損」と「株の含み損」を分けて考える
為替と株は異なる変動要因を持ちます。円高で円建て評価額が下がっても、ドルベースの株価が維持・上昇していれば、「為替が戻れば含み益も戻る」という構図があります。
まず自分のファンドの「ドルベースのパフォーマンス」を確認することが第一歩です。
行動指針②:「今の円高局面」を「安く仕込める機会」と捉える
円安時代でも長期リターンの高さでは米国株・全世界株式が圧倒的優位だ。
円高局面では、同じ円を使っても「より多くのドル建て資産を買える」状態にあります。「投資のチャンス」として積立を続けることが、長期的な資産形成に最も合理的なアプローチです。
行動指針③:ポートフォリオに「円建て資産」を加える分散を検討する
S&P500(米ドル建て)に偏らず、全世界株式を中核にすることで特定通貨への依存を下げられる。さらに日本株インデックス(TOPIX・日経225)を一部組み込めば、為替リスクのない円建て資産も持てる。
「全資産をドル建て」にしていた場合、為替リスクへの集中度が高すぎた可能性があります。全世界株式ファンドへの分散や、日本株比率の引き上げによって、為替リスクを分散する選択肢を検討してみましょう。ただしこれもタイミングではなく、長期的な資産配分の見直しとして行うことが重要です。
まとめ:「巻き戻し」は終わりではなく、長期投資家への試練
本記事のポイントを整理します。
- 円キャリー巻き戻しとは:低金利の円を借りてドル資産に投資していた投資家が、日米金利差の縮小を受けてポジションを一斉に解消する動き。短期間に急激な円高を引き起こす
- 新NISAへの影響:円安局面で積み上げてきた為替差益が急速に剥落。「含み益のほとんどが為替差益だった」という実態が露わになっている
- やってはいけないこと:含み損での損切り・円高後の為替ヘッジ切り替え・積立の停止
- 長期投資家がすべきこと:「為替の含み損」と「株の含み損」を分けて考え、ドルコスト平均法の積立を継続する
- 今後のリスク:日銀の追加利上げ観測と米国の利下げ転換が重なれば、巻き戻しが第二波・第三波を生む可能性がある
「インデックス長期積立の勢はノーダメ」——この掲示板の言葉は正確ではありませんが、「長期的に見れば問題ない可能性が高い」という意味では、正しい方向の思考です。短期の痛みに耐えて積立を続けた投資家が、5年後・10年後に「あの時に狼狽売りしなくてよかった」と振り返るケースが歴史上繰り返されてきました。
著者プロフィール
仮面サラリーマン
大手メーカー勤務の現役サラリーマン。投資歴20年以上。 日本株・米国株・ETF・為替・マクロ経済分析を中心に投資を行っています。
written by 仮面サラリーマン
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