2026年2月4日水曜日

南鳥島レアアース泥の採掘成功は何を意味する?コスト・採算・中国依存脱却の現実を徹底解説


2026年2月、地球深部探査船「ちきゅう」が南鳥島周辺の水深約6,000mからレアアース泥の船上回収に世界で初めて成功しました。小野田紀美・経済安保担当大臣は会見で、来年度に「採取→南鳥島陸上で脱水・分離→本土で精製」までの一連プロセスを実証し、経済性評価を行う方針を表明しています。本記事では、最新の事実関係と公表資料をもとに、採算性・産業化・地政学的意義までをわかりやすく分析します。


1. 南鳥島レアアース泥とは?深海6000mの「戦略資源」

・南鳥島周辺のレアアース埋蔵量は世界最大級

東京大学・JAMSTECの研究により、南鳥島EEZの一部(約2,500km²)だけでもレアアース酸化物換算で約120万トン規模が推定され、広域には高品位のレアアース泥が分布することが示されています。2011年以降の学術成果では、海底面下浅部に数千ppm級の「超高濃度レアアース泥」も確認されています。

・地上鉱山と何が違う?放射性物質が少ない「クリーンな泥」

南鳥島のレアアース泥は、陸上鉱床に比べトリウム・ウラン等の放射性元素が極めて少ないことが特徴とされ、希酸での抽出も容易と報告されています。これにより、選鉱・精製の環境負荷とコストが相対的に低減し得る点が注目されています。

・重希土類が含まれる可能性が重要視される理由

EVモーターや風力発電用の高性能磁石に不可欠なジスプロシウム、テルビウムなどの中・重希土類は供給が中国に偏在しています。南鳥島泥は重希土類を高濃度で含み得る点が戦略的に重要です。


2. 今回の「採掘成功」の意味は?何が新しいのか

・深海6000mまで「パイプ接続成功」が技術的ブレイクスルー

JAMSTECは閉鎖型循環方式の採鉱システムで、6,000m級の深海から泥を連続的に揚泥できることを実証段階に進めました。2026年1月に現場到着、1月30日から回収作業を開始し、2月1日未明に初回の船上揚泥を確認しています。

・2018年からの国家プロジェクトの節目

この試験は、内閣府SIP「海洋安全保障プラットフォームの構築」に位置づけられ、資源量評価→採鉱→分離・精製→製錬→環境モニタリングを一貫して実証するロードマップの節目です。

・世界的にも希少な「泥の揚泥成功」

深海堆積物を閉鎖系で掻き取りスラリー化し、6,000mを循環流で船上搬送する方式は世界初の規模と深度。2022年の2,470m実証からのスケールアップに成功しました。


3. 最大の論点:採算性は本当に取れるのか?

・現時点での採掘コストは?なぜ高いと言われるのか

深海6,000m級の揚泥では、長大ライザー、ROV運用、船舶日当、環境モニタリングなど固定費・運転費が高止まりします。政府は2026〜2028年度に実工程ベースのコスト評価を行い、産業化の可否を判断するとしています。

・生産プロセス(採泥→脱水→分離→精製)の課題

小野田大臣は「南鳥島で脱水・分離を行い、本土で精製する」一連の実証計画を明言。ボトルネックは①海上・島内の一次処理設備、②本土での精製インフラ、③環境アセス実務です。

・商業化まで最低10年と言われる理由

政府の工程表では、2026年の接続試験→2027年の日量350t級試験→2028年度の社会実装プラン取りまとめを経て、以降に段階的実装を目指すと整理。すなわち、フルスケールの商業運転には相応の年限を要します。

・「採算度外視」という議論が起こる背景

中国の輸出管理強化・手続き遅延等で、日本のレアアース供給は再び地政学リスクに晒されています。短中期の安定供給のカードを確保するうえで、国費での初期投資と高コスト許容の議論が生まれています。


4. 中国依存脱却は可能か?レアアースを巡る地政学

・中国の輸出規制が世界市場に与えた衝撃

2025年以降、中国は中・重希土類や関連設備・原材料に輸出管理を拡大し、日米欧に波紋。首脳会談で一部措置は一時停止となったものの、「許可制」「遅延」「対象拡大」というリスクは消えていません。

・日本が過去にオーストラリア企業を支援した理由

2010年以降の「レアアースショック」を受け、日本は豪ライナス等への出資・融資で非中国ルートを構築。結果として依存度は低下したが、重希土類は依然として脆弱です。

・中国の環境負荷と低コスト構造の実態

中国は精製(分離)工程の世界シェアが9割前後。環境コストや規制の濃淡が価格優位を支え、他国の代替・自立を阻む構造的要因になっています。

・南鳥島の資源が「牽制カード」になり得る可能性

即座の自給は難しくとも、国産資源の実装可能性が高まるほど、輸出規制や価格操作に対する交渉力は上がります。JAMSTECの実証と政府工程表は、その「カード化」に資する材料です。


5. 小野田大臣の「採算がダメなら終わりなのか」発言の真意

・経済安全保障としてのレアアース確保

大臣は「産業化がだめならそれで終わりなのか」と述べ、国家安全保障上の供給確保を強調。試掘成功を受け、来年度の一連プロセス実証と経済性評価を約束しました。

・戦略物資は“利益”ではなく“国家リスク”で判断する理由

米国が国内レアアース企業への資本投入を行うなど、先進国はレアアースを地政学上の基幹に位置づけています。短期の採算と長期の供給安全は別軸で評価されます。

・過去の例:シェール革命・石油備蓄との比較

初期は採算が厳しくとも、技術学習・規模の経済でコストが逓減するケースは多くあります。国家備蓄・多元調達・代替技術と並走する「第四の柱」としての国産化は妥当です。


6. 産業化までのロードマップ:2026〜2035年の想定

・2027年:南鳥島で脱水処理設備の建設

政府資料では、2027年に日量350t規模の採鉱試験と一次処理(脱水・分離)を計画。本土での精製試験を並行し、サプライチェーンのボトルネック抽出を進める段取りです。

・2028年:コスト評価 & 商業化の可否判断

2028年度に社会実装プラン(経済性評価含む)の取りまとめが目標化されています。ここでLCOE的な単位コスト感、CAPEX/OPEXの妥当性、環境配慮コストを含めて判断します。

・2030年代前半:部分稼働の可能性

2027年以降の大規模試験が成功し、環境影響・法制度整備が前進すれば、2030年代前半の段階的運用は選択肢に入ります(最終判断は経済性と社会受容性次第)。


7. まとめ:南鳥島レアアース泥は「今すぐ救世主」ではないが、日本の未来を変える鍵となる

・採算性は不透明。しかし“国産資源カード”として価値大

試掘の成功は技術実証の節目。採算が直ちに合わずとも、供給安全保障のオプション価値は非常に大きいと言えます。

・中国依存脱却の現実的な“一歩”である

中国の輸出管理強化・手続き遅延リスクのもと、非中国ルートの多角化+リサイクル+備蓄と並ぶ第四の柱が「南鳥島」です。

・長期視点で日本の技術力と安全保障を支える可能性

環境配慮型の閉鎖循環方式、国際標準(ISO)に基づくモニタリング、段階的な実装――。日本発の深海資源技術は、国内供給だけでなく国際的な技術輸出の芽にもなり得ます。



written by 仮面サラリーマン