「先週まで+130万円あった含み益が、今週+30万円になっている……」
2026年9月、新NISAでオルカン(eMAXIS Slim全世界株式/全世界株ファンド)を積み立ててきた投資家から、そんな悲鳴が続出しています。
円高でNISA積立枠のファンドが下落した。先進国株が-293円(-0.63%)、S&P500が-238円(-0.52%)とドルベースでは1%程度上がっているが、円ベースでは下落した。
「損切りした方がいいのか」「もう積立を止めるべきか」——頭の中に様々な選択肢が浮かんでいる方に、まず一つお伝えしたいことがあります。
今行動する必要はありません。理由を説明します。
※本記事は情報提供を目的としており、特定の投資行動を推奨するものではありません。最終的な判断はご自身の責任のもとで行ってください。
なぜ今、オルカンの含み益が「100万円消えた」のか
2026年の「二重の下落圧力」
日本の投資家にとって見逃せなかったのが「円高」の進行だ。米国の利下げ観測が強まると、ドル安・円高の流れが加速した。為替は1ドル=150円台後半から140円台へと円高に振れ、日本円で評価されるオルカンの基準価額には強い下押し圧力がかかった。
2026年のオルカン下落には、大きく2つの要因が重なっています。
要因①:円高の急進 2026年7月の日米協調為替介入(推計5〜6兆円規模)を契機に、それまで160円超で推移していたドル円が155円台、さらに150円前後まで急速に円高が進みました。
オルカンの約60%は米国株で構成されており、その大部分はドル建てです。円高が進むと、ドル建ての資産を円に換算した価値が下がるため、「ドルでは増えているのに、円では減っている」という状況が生じます。
要因②:米国株の一時的な軟調 米国経済の成長鈍化の兆候が投資家の不安を煽っている。米国株はオルカンの大きな構成要素であるため、この減速懸念が下落の要因の1つとなっている。
円高と米国株の軟調が同時進行することで、円建てのオルカンの下落幅が実際の株式市場の下落より大きく見えるというのが今の状況です。
損切りしてはいけない理由①:「含み損」と「確定損失」は根本的に違う
最も重要な基礎知識をここで確認します。
現在の「含み益が100万円消えた」という状態は、「100万円の損失が確定した」ではありません。
- 含み損:売却していない状態での評価上の損失。価格が戻れば消える
- 確定損失:実際に売却して初めて確定する損失。一度確定すると取り戻せない
損切りするということは、「今の含み損を永久に確定させること」を意味します。オルカンが将来回復した場合、損切りした人だけが回復の恩恵を受けられなくなります。
損切りしてはいけない理由②:「過去の急落」は毎回回復してきた
オルカン(全世界株式)が短期間で大きく下落した過去の事例と、その後の推移を見てみましょう。
| 時期 | 下落の原因 | 最大下落率(円建て) | 回復までの期間(おおよそ) |
|---|---|---|---|
| 2020年2〜3月 | コロナショック | 約▲25〜30% | 約5〜6ヶ月 |
| 2022年 | 米利上げ・インフレ | 年間で約▲20〜25% | 約1〜2年 |
| 2024年7〜8月 | 円高・日銀利上げ | 一時▲20%前後 | 約3〜4ヶ月 |
| 2026年(現在) | 円高・米国株軟調 | 進行中 | — |
過去の全ての下落局面において、オルカンは時間をかけて回復しています。「今回だけは違う」と断言できる根拠がない限り、歴史のパターンに従うことが合理的です。
損切りしてはいけない理由③:「新NISA」は損切りすると税制上の恩恵も失う
新NISAの最大のメリットは「利益が非課税」であることです。しかしここに見落とされがちな重大なポイントがあります。
100万円で買った株が11倍の1100万円に値上がりしたとする。利益は1000万円だが、課税口座だと20.315%取られて手取りは約796万円になる。しかしNISA口座なら1000万円丸ごと手に入る。
新NISAで損切りするデメリット
① 損切りした時点での損失は非課税ですが、「損益通算」(利益と損失を相殺すること)ができません。課税口座なら他の利益と通算して税金を減らせますが、NISAではそれができません。
② 一度使った「非課税枠」は、売却しても翌年まで復活しません。早まって売ると、その分の非課税枠を使い切ってしまいます。
③ 再購入するときは残った非課税枠か翌年の非課税枠を使う必要があり、将来の投資に使えるはずだった枠を消費してしまいます。
損切りしてはいけない理由④:円高は「日本株への追い風」でもある
「円高でオルカンが下がった」という事実の裏には、重要な逆説があります。
円高が進むと、外国株(ドル建て資産)の円換算価値は下がりますが、輸入品の物価上昇が抑制されるという家計へのプラス効果があります。
円高で物価高が抑制される効果と運用資産の目減りを比べると前者の方が重要な気がする。
また、オルカンには日本株も約5〜6%程度含まれており、円高局面では内需企業・金融株・消費関連株への資金流入が起きやすい構造があります。「円高だから全部ダメ」ではなく「外国株は逆風、日本株の一部は追い風」という二面性を理解することが重要です。
損切りしてはいけない理由⑤:「最悪のタイミング」で売ることが最大のリスク
行動経済学の研究が一貫して示しているのは、「個人投資家は最悪のタイミングで売り、最悪のタイミングで買い直す」という傾向です。
下落を恐れて売却する → 相場が回復してから「やっぱり買おう」と高値で買い直す — これが「狼狽売り」と呼ばれる最もリターンを下げる行動パターンです。
毎月一定額を積み立てる「積立投資」を行っている場合、円高で基準価額が下がっている時は、同じ投資額でより多くの口数を購入できるチャンスだ。これにより、平均購入単価を平準化させる「ドルコスト平均法」の効果が期待でき、将来的に相場が回復した際に、より多くのリターンを得やすくなる。
「今下がっている」ということは「安く買えている」ということでもあります。
では、今すぐ何を確認すべきか——3つのチェックポイント
「何もしなくていい」とは言いますが、「何も確認しなくていい」とは違います。今の局面で確認しておくべきことが3つあります。
チェック①:「円安分の含み益」と「株価分の含み益」を分けて把握する
自分の含み益・含み損が「為替変動によるものか」「実際の株価変動によるものか」を把握しましょう。
多くの証券会社のアプリで「外貨建て評価額」を確認できます。ドルベースでプラスなら、円高が解消されれば含み益が戻る可能性が高いということです。
チェック②:「生活防衛資金」が別に確保されているかを確認する
NISAに投資している資金は「使う予定がないお金」であるべきです。もし生活費の一部をNISAに入れてしまっている場合、急な支出に対応するために売却を余儀なくされるリスクがあります。
生活費6ヶ月分程度を預金・流動性の高い資産として別に確保できているかを確認してください。これが確保されていれば、含み損でも「待てる」状態になります。
チェック③:「積立額が家計を圧迫していないか」を確認する
月々の積立額が高すぎて家計が苦しくなっているなら、積立額を減らすことは合理的です。積立を「ゼロに止める」ではなく「無理のない金額に減らす」という選択肢があります。
大切なのは「続けること」です。少額でも続ける方が、高額で中断するより長期的なリターンに貢献します。
「下落は恐怖」から「下落は機会」への思考シフト
投資の格言に「Buy the dip(下がったら買え)」という言葉があります。長期積立投資においてこれは「下落局面こそドルコスト平均法が最も機能する」という意味でもあります。
オルカンの過去の長期チャートを見ると、短期的な急落は必ず「小さな谷」として埋め込まれていきます。10年・20年のスパンで見ると、「下落していた時期に積み立てた分」が後の大きなリターンの源泉になっているケースが多く見られます。
含み益が100万円消えることは、確かに精神的につらい体験です。しかしその「つらさ」を乗り越えた先に、長期投資のリターンが待っています。
まとめ:「忘れて積立を続ける」が最強の戦略
本記事のポイントを整理します。
- 今の下落の原因:円高の急進(日米協調介入後)+米国株の一時的な軟調という「二重の下落圧力」が重なっている
- 損切りしてはいけない5つの理由:
①含み損は確定損失ではない
②過去の急落は全て回復してきた
③NISA内で損切りすると非課税枠が無駄になる
④円高は日本の物価・一部日本株には追い風
⑤狼狽売りは「最悪タイミングで売る」行動 - 今すぐ確認すべきこと:
①為替分と株価分の含み損を分けて把握
②生活防衛資金の確保状況
③積立額が家計を圧迫していないか - 最強の戦略:日々の基準価額を見るのをやめて、積立を黙々と続けること
「評価損益率は+8.50%。TOPIXは年初来+17.99%でした。まあ積み立てていくことにします。」——これが今の局面での最も賢明な態度かもしれません。
著者プロフィール
仮面サラリーマン
大手メーカー勤務の現役サラリーマン。投資歴20年以上。
自動車業界、製造業、AI、半導体、中国経済、日本株・米国株投資を中心に分析しています。
本ブログ「日本と世界の今がわかるニュース解説ブログ」では、ニュースの表面ではなく、その裏側にある経済構造や国家戦略をわかりやすく解説しています。
モットーは「ニュースの裏側を知れば、未来の勝者と敗者が見えてくる」です。
written by 仮面サラリーマン