1. 今回のヒグマ無断駆除事件とは?|逮捕の有無や現場の状況
・事件が発生したゴルフ場の場所と背景
問題の現場は札幌市南区の「滝のカントリークラブ」。2025年9月4日、敷地内に出没したヒグマ1頭に対し、契約関係にあった70代の男性ハンターが猟銃で発砲・駆除しました。直前の9月2日・3日にも目撃が続いていたと報じられています。
・「逮捕ではなく書類送検」など報道の整理
北海道警は2026年2月5日までに、逮捕ではなく、鳥獣保護管理法違反(無許可捕獲)などの疑いで、70代のハンター、40代のゴルフ場支配人、運営会社を書類送検しました。
・数日前からクマが確認されていた経緯
敷地内では3日連続で出没していたと複数の報道が一致。ハンターは4~5メートルの至近距離で対応したとの証言も報じられています。
2. なぜ「無許可の発砲」になる?|ハンターが守るべき発砲許可のルール
・銃砲による駆除にはなぜ発砲許可が必要なのか
一般に「発砲許可」という言い方が広まっていますが、正確には鳥獣保護管理法に基づく捕獲(駆除)許可や、改正法で創設された「緊急銃猟」制度(市町村長が責任主体)などの枠内での銃使用が求められます。無許可の捕獲等は同法の違反となり得ます。
今回報道では、当該ハンターはシカ対策の権限はあったものの、ヒグマの駆除許可は保有していなかったとされ、ここが「無許可捕獲」とされたポイントです。
・許可はどれくらいで下りる?現場の運用の実態
2025年の法改正で新設された緊急銃猟は、人の日常生活圏に侵入したクマ等に対し、市町村が迅速に銃猟を委託・実施できる制度です。実施には「場所・緊急性・方法・安全性」の条件や住民避難・通行規制などの厳格な安全措置が前提で、ガイドラインが詳細に定めています。
(迅速化の枠組みは整備されたものの、現場では体制・人員・訓練等の事前準備が必要です。)
・居住地近くでは許可が出にくい理由
銃猟は誤射・跳弾等の重大事故リスクを伴い、住民の安全確保やバックストップの確保が難しい市街地・周辺環境では運用がより慎重になります。実際、北海道内では駆除現場での発砲の危険性を巡る処分・訴訟が続き、最高裁の審理でも注目されてきました(砂川市の事例)。
3. 緊急避難・正当防衛は成立する?|法律の判断ポイント
・「危険が差し迫っていたか」の法的基準
刑法37条の緊急避難は、現在の危難があり・他に手段がなく・生じた害が避けようとした害を超えない場合に限り違法性が阻却されます。基準は厳格で、単に「危ないと思った」では足りません。
・今回は緊急性がなかったとされる根拠
報道では、出没が連日続いていた=遭遇が想定可能だったとして、「不意の危難」ではなく計画的な見回り中の発砲と評価され、道警は緊急避難に当たらないとみたとされています。
・「遭遇してからでは遅い」現場とのギャップ
一方で、至近距離(4~5m)での遭遇が伝えられており、「人命優先で瞬時に撃たねば危険」との現場感覚と、運用上の厳格な許容要件とのギャップが議論の焦点です。
4. ハンター側の視点|なぜ発砲に踏み切ったのか
・ゴルフ客の安全確保の必要性
出没が続くゴルフ場では、利用者や従業員の退避が必要となる場面も生じ、クマが人に接近するリスクがあれば、ハンターの「緊急対応」意識が強まるのは自然です。実際、当時も出没に伴い屋内退避が行われたと報道されています。
・射殺と罠の運用の違い
罠は発見から捕獲まで時間がかかるのに対し、銃は即応性が高い一方で安全確保の要件が厳格です。緊急銃猟制度も「罠等では迅速・適切な捕獲が困難」な状況に限定して銃猟を認めています。
・現場判断が難しい理由とは
北海道では、過去の駆除現場での発砲を巡って銃所持許可の取消し等が争われ、ハンター側の萎縮・人員不足も指摘されてきました。制度面の改善(緊急銃猟)だけでなく、連携手順・保険・訓練等の積み上げが欠かせません。
5. 警察・行政側の視点|発砲許可の運用とリスク
・誤射・事故リスクに対する警察の立場
市街地周辺での銃使用は、住民・施設への二次被害の恐れが高く、緊急避難の厳格な成否判断や、緊急銃猟における避難・通行規制・バックストップ確保など安全措置が不可欠です。
・「許可制」を維持する理由
鳥獣保護管理法は、「野生生物の保護」と「人命・生活の安全」の両立を目的に銃猟の適正化を規定しており、無秩序な発砲を避けるため、行政主導の計画・許可・委託という手続的統制を取ります。
・北海道特有の事情(出没多発・市街地への侵入)
北海道はヒグマの個体群を抱え、市街地への侵入も起こり得る地域。制度上は緊急銃猟で迅速対応が可能になったものの、人員・連携・訓練の平時整備がなければ機能しません。ガイドラインは平時準備(協力体制・訓練・装備・保険)を詳述しています。
6. ネット上の反応|「人命より手続き?」「許可は現実的でない」と議論白熱
・ハンター擁護の声
「人を守るための発砲まで処罰対象か」という違和感は根強く、至近距離の遭遇報道などを根拠に、現場の一瞬の判断を理解すべきとの意見が目立ちます。
・「無法地帯になる」という許可制度支持の声
一方で、許可・委託の枠外での発砲を容認すれば、安全統制が崩れるとの懸念から、手続の厳格運用を支持する声もあります。公的ガイドラインも厳格な条件と安全措置を求めています。
・道警の運用に批判的な意見
「緊急避難を狭く解しすぎ」「現場の危険を理解していない」との指摘もありますが、連日出没で想定可能だった点を理由に緊急避難不成立とみたのが道警側の判断と報じられています。
7. 今後の課題|国・自治体の熊対策はどうあるべきか
・被害増加に追いつかない現在の制度
緊急銃猟の創設で「迅速化の土台」は整いましたが、要件の厳格さと運用体制の不足がボトルネックになりがち。自治体の訓練、装備、関係者の連絡網、住民周知・避難導線の設計が急務です。
・「迅速な許可」「常駐ハンター制度」など改善案
市町村直轄のガバメントハンターや常勤専門職の拡充、保険・補償の全国統一、ドローン等の監視といった平時の体制強化は、ガイドラインや各種解説でも示唆されています。
・住民の安全と自然保護を両立する方向性
「人命最優先」と「野生生物の持続的管理」の両立には、科学的データに基づく管理計画と現場運用の納得感が不可欠。制度・手続を現場に「届く」レベルに落とし込むことが、次の一歩です。
まとめ:今回の事件は「現場の安全」と「法律運用」のギャップが浮き彫りに
札幌・滝のカントリーでの無許可駆除の書類送検は、想定可能な出没のもとでの発砲は緊急避難に当たらないという当局の見立てと、至近距離での危険に直面すれば撃つしかないという現場感覚の衝突を映しました。制度は改正され緊急銃猟の枠組みが整いましたが、体制・訓練・安全措置という現実的な準備が伴わない限り、同様の摩擦は再発します。