2026年2月、Anthropic(アンソロピック)が公開した新機能をきっかけに、「SaaSの死」という強い言葉がマーケットとSNSで一気に拡散しました。ソフトウェア単体の話に留まらず、プライベートクレジット&PE(KKRなど)や投資銀行にまで売り圧が波及。SaaSの高成長前提が揺らぐと、資金の出し手側の評価も直撃する――そんな連鎖が実際の株価に現れています。
■ 1. Anthropicが発表した新技術「Claude CoWork」「Computer Use」とは
・AIが“PCを自律操作”する時代へ
Anthropicの「CoWork(コワーク)」は、LLMが人間の指示に基づいてファイル操作・アプリ横断・資料作成・法務/財務タスクまでを自律的に進める“エージェント”志向の機能群です。発表直後のアナリストレポートでは、従来の業務ソフトや情報サービスの一部代替に踏み込む見方が示され、関連ソフト株が連鎖安となりました。
・画面認識・クリック・入力などをAIが実行
CoWorkは、従来の「問い合わせに答えるAI」を超え、人間の代わりにアプリを開き、クリックし、テキストを入力して作業を完了させる――いわば「画面レベルの自動化」を一般ユーザーにも解放した点が肝です。専門業務(契約レビューや財務分析)に踏み込んだと報じられ、市場の理解が一気に進みました。
・従来のRPAとの決定的な違い
RPAが座標や定型フローに強い一方、CoWorkはLLMベースで画面の意図や文脈を理解して可変UIにも追随しやすいのが本質的差異です。エージェント化の進展は、GUI(人間用の画面)を介さず裏側へ直接アクセスする「UIの中抜き」を加速させる、という技術トレンド解説とも合致します。
■ 2. なぜ「SaaS死亡」と言われているのか?
・バックオフィス系 SaaS が置き換えられる可能性
これまで人が操作していたSaaSが、“人の手なし”でAIエージェントにより実行されると、UI価値の低下とSeat(ID)課金の減少が懸念されます。特に記録(System of Record)中心のSaaSは、AIが“行動(System of Action)”を担う時代に競争力を失いやすいという指摘が出ています。
・名刺管理・会計・CRM が AI エージェント化する未来
名刺管理・請求・会計・CRMといった横断的タスクは、PC内外の複数SaaSを跨いだ自動処理で置換されやすい領域です。法務・財務分析まで踏み込んだCoWorkの示唆は、「垂直特化SaaS」にもAI代替圧力が及ぶ可能性を投資家に意識させました。
・“AIが10人分働く”時代の到来と契約数減少リスク
AIエージェントが少人数で多人数分の業務を肩代わりすれば、企業が契約するライセンス数は減る――こうしたモデル崩壊懸念が、今回の売りトリガーの核にあります。
■ 3. 影響を受けやすいサービス・業界リスト
・会計ソフト(freee、勘定奉行 など)
仕訳・申告・請求など定型性の高いドキュメント処理は、法務・財務のCoWork機能拡張と相性が良く、会計SaaSの「ID減少」リスクが意識されました。
・RPAベンダー(UiPath など)
固定フロー前提のRPAは、AIが画面意図を読み取る自律操作に置換される可能性を指摘されます。GUIの中抜き(バイパス)潮流とも整合的です。
・グループウェア(サイボウズ ほか)/ノーコード開発ツール
“人が触る前提のUI価値”が縮小すれば、ノーコードで画面を量産する優位性も薄れる恐れ。日本市場では名刺・請求・ワークフロー系の下げが目立ちました。
■ 4. 影響を受けやすい職種:どの仕事が奪われるのか
・事務職・バックオフィス/営業事務・総務・人事の定型業務
文書作成・データ転記・台帳更新など、「規則に基づく反復」はエージェント化の本丸。人手の削減圧力はSeat課金の減少=SaaS売上の伸び鈍化と表裏一体です。
・中間管理職(調整・進捗管理がAI化)
スケジュール調整、KPIダッシュボードの更新、稟議のリマインドなどは、A2A(Agent-to-Agent)の自動連携で代替が進むとの観測もあります。
■ 5. 逆に「AI時代でも価値が残る仕事」とは
・AIを使いこなすエージェントオペレーター
プロンプト設計・評価・安全設計・ワークフロー設計など、“AIに仕事を任せる側の職能”はむしろ需要が増します。
・現場作業・フィジカル領域/企画・クリエイティブ・責任者
物理制約が強い現場や、経営上の最終責任・意思決定・ブランド設計などの領域は、AIの補助を受けつつ人的判断が残るとの見方が優勢です。
■ 6. 投資家目線:SaaS株は本当に終わりなのか
・株価の短期反応と長期的な展望
短期的には、ソフト株下落→ファンド評価減→金融株まで売りという連鎖で、IGV(米ソフトETF)も2日で約6%下落。ただし長期では、“AIを真に実装できるソフト”と“バックエンドに強い企業”が選別される局面との解説が目立ちます。
・恩恵を受けるセクター(AI関連株・半導体・電力)
資金はAIインフラ(計算・データ・電力)へ循環しやすい地合いに。個別推奨は避けますが、テーマとしてはモデル運用基盤やデータ基盤、電力・冷却などが物色対象になりやすいと解説されています。
・SaaS企業が生き残るための戦略
①独自データ資産の活用、②MCP対応で“AIが使いやすいIF”整備、③Seat課金から成果・実行課金への移行――といった“レイヤーが落ちる”前提の再発明が必須です。
■ 7. きっかけになったAnthropic「CoWork」の衝撃と市場の連鎖
・専門業務(法務・財務分析)のAI自動化が市場を揺らした理由
法務・財務など高単価なホワイトカラー領域は「最後の砦」と見られていました。そこにCoWorkが入り、“UIの民主化(CLIから一般向けUIへ)”で投資家の理解が急速に進んだことが、広範な売りにつながりました。
・Coworkが「人ではなくAIが直接SaaSを操作する」未来を提示
人間がSaaSを使うのではなく、AIがSaaSやOSをまたいで“仕事を完了”させる――このパラダイムは、GUIの役割縮小とID課金の揺らぎに直結します。
■ 8. なぜKKRは2日で8%も暴落したのか
・SaaS多保有という構造的リスク
PEのビジネスは買収→価値向上→Exit。SaaSの評価縮小は未実現利益の圧縮・Exit難易度上昇を通じ、GPのキャリーやAUM評価にも逆風となりやすい――この構図がKKR 2日−8%という異例のスピードで織り込まれました。
・IPO凍結とM&A停滞が収益モデルを直撃
Exitの受け皿(IPO/M&A)が冷えると、評価益の実現も遅延。PEに融資・アドバイスを提供する銀行・投資銀行の手数料源も細るため、金融株の同時安という二次波及が生じます。
■ 9. 銀行・ファンドにまで飛び火した「負の連鎖」
・レバレッジローン担保の価値下落が銀行リスクを増大
PE案件向けレバレッジド・ローンは買収先の将来キャッシュフローと価値に依存します。SaaSのバリュエーションが崩れると担保価値が下がり、銀行のリスクアセット圧力が増すという筋立て。
・ETF(IGV)まで6%下落する広範囲の波及
米ソフトウェアETFIGVはニュース後に短期で約6%安。個別(Oracle、Salesforce、Adobeなど)の動きと併せ、“ソフト全般売り”→“金融へ”の二段波及を示しました。
■ 10. 日本株にも広がった「SaaSショック」
・ラクス、Sansan、freee、弁護士ドットコムの急落理由
国内でも請求・名刺・会計・リーガルに直撃。「AIに代替されやすい領域」から順に売られたとの市況解説が見られます。
・大企業(NEC・リクルート)まで影響した理由
自社SaaSやITサービス比率、あるいは“AIの勝者と敗者”の見立てが交錯し、バスケット的な売りが広がった格好です。
■ 11. ではSaaSは本当に死ぬのか?――「消える」のではなく“レイヤーが落ちる”
・GUIの死、ID課金の死、そして「System of Action」化
「SaaSの死」とは、画面(GUI)中心の価値・Seat課金・“記録中心”の在り方が死ぬという意味であり、SaaSそのものが消滅するわけではありません。AI時代のSaaSは、裏側のAPI・データ・実行エンジンとして再定義されます。
・MCPとA2Aの台頭
MCP(Model Context Protocol)などの標準により、AIがデータ源・ツール群に直接つながる設計が普及。さらにA2A(Agent-to-Agent)でエージェント間が自律協調すれば、“人間のUI操作”を前提にしたSaaSは相対的に後景化します。
・独自データを持つ企業はむしろ強くなる
公開データで学ぶAIが増えるほど、非公開でクリーンな一次データの希少価値は高まります。固有データ×AIを持つ事業者は、むしろ評価が見直される可能性があります。
■ 12. 投資家が今注目すべき領域
・AIインフラ・データ基盤へ資金が移動
市場は「フロントUI→バックエンド」へ視線を移しています。推論基盤、データパイプライン、モデル運用、エネルギーなど、AIを動かす土台に資金が向かうとの分析が増えています。
・SaaSの“表層”より“裏側”に強い企業が残る
UIの巧拙ではなく、API性能・データ品質・実行信頼性が優位性の中心へ。Seat課金に依存せず、実行・成果ベースに切り替えられるプレイヤーが選別されます。
・ファンド・銀行株の今後のリスク分析
PEの未実現評価とExit環境、銀行のレバレッジローン曝露、投資銀行のM&A/IPOパイプラインを見極めるのが要諦。セクター横断で“SaaS依存の度合い”を点検すべき局面です。
■ 13. まとめ:AIエージェント時代の大変化は避けられない
・SaaSは死ぬのか?変わるのか?
結論は「SaaSは消えない、ただし“画面中心のSaaS”は終わる」。AIエージェントとプロトコル標準が、SaaSを裏側の“実行&データ基盤”へと押し下げる転換点に私たちは立っています。
・個人も企業も“AIを使う側”に回る準備が必須
企業は独自データ×AI実装×課金モデル転換、個人はエージェント設計と評価スキルの獲得が急務。マーケット面では、ソフト売り→金融売りの連鎖に注意しつつ、AIインフラへの資金シフトという中長期潮流を冷静に見極めるべきです。
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